鋭いパスのあとはきまって背中がチリチリと痛い。少し無理矢理きめたダンクのあと 一層強い痛みを感じ振り向いてみればもう先輩は自分のポジションへと走り出していた。
最近ずっとそうだ。ダンクのあとはいつも痛い。理由は知ってる。先輩が、俺を睨んでる。



周りの選手と比べても背が低い方の先輩の跳躍力は尋常じゃない。ある程度なら カバーできてしまうほど尋常じゃない。尋常じゃないけど、リングには届かない。
だから、


「先輩」
「あ?っておわ!?なにすんだ流川はなせばかやろう!」
たぶん、
「したいんじゃないんすか、ダンク」
「…何言ってんのおまえ?」
「思いっきりたたきつけるんです」
「んなことは知ってるっつの!いいから降ろせ!」
「先輩がきめるまで降ろさねー」
「ふ・ざ・け・ん・な!」



先輩はなにも言わない。今度のことだって、睨むくらいなら俺にそれを言えばいい。 先輩がダンクをしたいかどうかなんて本当は全くわからないしただの想像でしかないけど、 (なにかきっかけをつくって)そうでもしないと先輩はずっと俺を睨んだままだと思う。 睨まれるのが嫌なんじゃなくて(むしろそれで気がすむのならずっと睨んだって構わないけど)、 睨まないとやってられない先輩のことを思うとどうしようもなく歯がゆくなる。
先輩が俺になんでも言ってくれるくらい、俺を先輩のなかに置いてほしい。先輩は ガードが固すぎると思う。

じたばたしていた先輩がおとなしくなると、ずっと抱えていた腕がそろそろだるくなってきたことに 気がついてどうしようかと思ったら、先輩の顔は悔しそうに歪んでいて、 なんだか全部わかった気がした。

これでいいんだろ、とリングにボールを"たたきつけて"降ろせよ、と低く言う。
なんだか、全部。
(先輩はダンクがしたいわけじゃない)
うかつに謝る権利さえないような気がして黙って降ろしてやると、 先輩は情けなく笑ってみせて小さくため息をついた。



「わるかったな、練習中。気づいてたんだろ、睨んでたの」
なんとなく顔をあわせられなくて小さく頷くとはは、と乾いた笑いが響く。
「別にダンクがしたかったわけじゃねえんだ。できねえからって、できるお前を 恨んでたわけでもねえよ」
なんだか、全部、
(先輩はきっと強いられるまで打ち明けるということをしない)


「別に、ダンクで相手を圧倒したいわけじゃねえし、観客を湧かしたいわけでもねえし、 ダンクでいれようとレイアップでいれようと2点は2点なわけだし、」
「けど、ああやってチームの雰囲気も会場の雰囲気も変えられるのが、 ちょっと羨ましかっただけだよ」
「したいわけじゃねえけどできねえから、ちょっと悔しかっただけ、いいなって思っただけ」
「ったく中身までちっせえよな、ほんと」
(羨ましいという嫉妬。それに従って睨む自分に感じる嫌悪。ずっとその苦さを抱えて この人は今まで笑ってきた)



ここで、ぽろぽろ泣く程ばかで弱い人間じゃないということは知ってる。 けれど、吐き捨てるようにつぶやいた横顔にどうしても不安定な印象を受ける。 先輩は強いかもしれないけど、宮城リョータは脆いんじゃないかと思ってしまう。
(そして、守ってあげたくて仕方ない。おこがましいし、必要ないかもしれないけれど)



「先輩、すいませんでした」
「おう、ラーメンで許してやるよ」
けど、悪戯っぽくわらう、敵意はないその人懐こい笑顔にいつも壁を感じる。防御の気がする。 悲しい顔は見たくないのに、無理矢理になら笑わないでほしいと思う。無理矢理かどうかなんて、 わからないのに。



「先輩は、小さくねえとおもいます」
少し驚いたように目を見開く先輩に、ちょっとくらい誰かに言ったっていいんじゃないかと思う。 なにを思っているのか、どう感じているのか。俺にだって、少しくらい 言ってみたっていいんじゃないかと思う。できるだけ傷つけたくないし、 笑っていてほしいから、そう思うと俺は先輩のことなんて殆ど知らない。 せいぜい彩子先輩がすきなことと、たった今知った"別にダンクがしたいわけじゃない"ということと その理由くらい。そんなのじゃ、全然足りない。

「けど、先輩が自分で小せえって思うんなら、大きくなるように、 努力していけばいいんじゃないすか。
…お疲れ様でした」
先輩を聴くポジションになりたくて仕方ない。










(knock,knock,knock)
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ただの後輩以上になりたい、けどまだ恋未満(がもえすぎる〜!)
(07.3.22)