「なんだそれ?」
「知らねーの?だからばかは」
「大して変わんねえだろ頭は!」
「ロング・スロー・ディスタンスってのは、思いっきりゆっくり走んの。 喋れるくらいゆっくり、ずっと長い距離走んの。」



ふわふわの茶色い髪楽しそうに揺れる。落ちかけた日がつくる薄い影がふたつ、 ずっとこんな日々が続けばいい。俺のながーいながーい影のとなりに、こいつの 短い短い影が、ずっと隣にあればいい。

「それがどうしたんだよ」
「これから練習終わったらゆっくり走って帰ろうっつってんの」
「っはあ!?学校から家まで?冗談じゃねえ、走れる距離じゃねえだろ!」
「だってあんた体力ねーんだもん」
「…まあ、そりゃそうだけどよ」
宮城の歩幅がどんどん大きくなっていく。短い足でがんばってんじゃねえぞこら。(と言えば ばかみてえに跳んで頭を蹴られるから絶対言わない)
「やっぱ試合中あんたがいないと不安じゃん」
「おーどうしたんだよ宮城くん。かわいいこと言ってくれるねえ?」
「うざ」

かろうじて歩いていたその足がついに軽いジョギングになってうんざりした。冗談じゃねえ。
「待てって、本気でうちまで走ってくのかよ?練習後だぜ?無理だって」
「無理しないと意味ないじゃん。つかそもそもそんな無理じゃねーし。ゆっくりだよ? ほら走れ!」



短い影に引っ張られるようにして走ってる長い影はまだかろうじて俺の前にある。 俺のためを思ってのことだと思うとにやけもするが、さすがにあの練習の後で 走る気にはなれない。俺がいないと不安だという宮城のことばを思い出すと頑張ってやろうかいう 気にもなるが、勉強道具は全く入ってねえのに重いかばんのせいでたまらなくだるい。
走った先にリングがあるわけでもねえのにやってられるか!



「待てよ宮城!こういうのは朝しようぜ朝!」
「朝もやるよ?」
「"も"!?」
「体力ねーやつがつべこべゆうな!」
「んだとこのチビ!」
「だってさあ!」


あとちょっとしかない試合を思いっきり全力でやりたいとか大学でやるときのためにも 体力つけときたいとか朝も夜も一緒にいてーとか思わねーわけ!?


「…」
「あーそういいよじゃあ勝手にへばってろよばか三井!」



まわれ俺の頭、俺はあとちょっとしかない試合を思いっきり全力でやりたいとか 大学でやるときのためにも体力つけときたいとか思ってるわけだ、異議なしだ。 でも、なんかそのあと妙な言葉が聞こえやしなかったか、朝も夜も、?


「一緒にいてーに決まってるだろ!」
ああそういうことか、そういうことか、 なんでお前はそういう風に育っちゃったんだろうな?この不器用ちび。




「…なあ、やってやってもいいぜ?」
伏せたまぶたがぴくりと動く。愛しい。生意気を言ってみたり本気で殴ってみたり、もう すべて一挙一動、腹が立つくらい、愛しい。
ふわふわの髪をぐしゃぐしゃにしてやる。額にかかる前髪もありえない目つきで睨んだ顔も、 全部。

「なにすんだオラ!」
「ずっと隣にいろよ?」
「言われねーでもつきっきりで走ってやるよ体力なし男! わかったらさっさと走れ!」



長い影を引き剥がしてさっきより速いペース進んでいく影を慌てて追う。
あとちょっとしかない、その音はどんどん現実味を増すばかりで、けど、それでも俺たちが、 ずっとゆっくり続きますように、朝も夜もずっと一緒で、一緒じゃなくたって、 ゆっくり、長く長く、続きますように。










(ロング・スロー・ディスタンス)
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ロング・スロー・ディスタンスはゆっくり長い間リラックスして走るってことです〜 (BY中学の時の体育(!)の教科書笑)
(07.3.22)