「…合格おめでとう」
「…」
その声は前会ったときよりずっと沈んでいた。息も荒くないし手も握らないのでむしろ構えた。


「うちに来れば3月まで遊べたんだぞ」

なにがショーホクだ安西先生だ、おまえはうちにくるべきだった。 勉強なんてしてる場合じゃないだろう、おまえはバスケをしてないとだめだ。 3月からはじまるうちの練習に参加すべきだったんだ。 体がなまるだろう、ボールの感覚を忘れてしまうだろう、ほら、うちにきていればよかったんだ。

「…すいません」
だいたい君の頭で湘北にいけるのか?もし落ちたらどうするんだ。ああそうだ、 むしろ落ちたほうがいい、そしてうちに編入してくればいい、そうだ、
「落ちるんだ宮城!面倒なことは全部この田岡茂一が引き受けてやろう!」
「ばか言ってんじゃねえよ落ちてたまるか!」
変わってねえ!このおっさん全然変わってねえ!言ってること相変わらず無茶苦茶だ、


「ていうか今日はなんの用なんだよ!(何故か)知ってのとおり無事滑り止めには合格した! そのお祝いをのこのこ言いにきたのかよ!?」
「…今日はバレンタインだな、宮城」
(ちょっと待てよ俺ほんとこういうの苦手なんだ、 お願いだからそのほんのり赤く染まった頬をどうにかしてくれ、)
「まあ、顔はどうかしらんが、バスケの腕はたしかなんだ。 まわりから結構もらってるかもしれんが」
そう言って渡された小さな紙袋に俺は絶句した。
「公立の受験まであと1ヶ月程度だろう。風邪にだけは気をつけろよ」
そしてそれは中学校生活ではじめて身内以外からもらったチョコだった。 ご丁寧に添えられていたメッセージカードには"気を抜くな!"と激励の一言。




「…あれはいつ思い出しても泣けるなあ」
なんで、悔しいけどあのおっさんの言う通り、バスケだけは人並み以上にできたのに。 もう少しちやほやされたって。 俺のうきうきバレンタインの思い出がほんとうにあれだけだなんて寂しすぎやしないか。



「なんの話すか」
「俺のほろ苦い青春の話だよばかみてえにやたらチョコもらいやがってひがんでなんかねーぞ」
「俺あんたからもらってないんだけど」
「誰がやるか死んでもやらねえ」



ぼんやりとあの"気を抜くな!"の文字を思い出す。 なんか親父の字に似てたなあ、みんなおっさんの字ってあんな感じなのかな。 気を抜くな。俺はおっさんがあのことばをどういう気持ちで書いたか知らない。 でも多分あれは



「あ」
俺の合格を心底祈って。
(ああもうなんか、すっげえ、普通にしてたらいいおっさん、なんだよなあきっと。)


「なんすか」
「そこのチョコ、結構うまいぜ」
「なんで知ってんすか」




「もらったんだよ、昔な」
そういえばお返ししなかったなあと思った。お菓子なんて絶対渡せないけど練習試合くらいしてやろうか、そうだ、あした陵南に行ってみよう。あのおっさんは、すきじゃないけど嫌いじゃないんだ。







(ビターチョコレイト)
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勿体なかったので記念に笑!
受験の話のあたりは色々違うかもしれませんがそっとしておいてください〜…;
(07.2.19)