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「アイス食いたいっすね」 温暖化反対、たらたら垂れる汗のせいで、せっかくセットした髪が 情けないことになっている。あーやだやだ。 休日の部活はしんどい。午後からはバレー部が体育館を使うとかで、今日は午前中だけだった のにも関わらず、尋常じゃない暑さのせいで、試合の後みたいに疲れた。 一番太陽がうるさくて影もないようなこの時間帯をのろのろ歩いているのは俺たちくらいで、 とにかく蝉がうるさい。 今日は暑い。とりあえずかなり暑い。紫外線直撃な肌が痛い。 こんな日は寄り道しないでさっさとクーラーの前を陣取って、扇風機の首を止めて 贅沢に惰眠を貪るに限るのに、この空気の読めない後輩は、俺をコンビ二へと引きずって行った。 「こういうのはもちろん言い出しっぺが奢るんだよなあ?」 「まさか。ガリガリくんでいいっす」 「うっせえおとなしくじゃんけんくらいしろよ!」 クラブ後にはうれしい冷房とコンビニの独特の(なんか俺好みの)雰囲気に流されて そんなことを口走ってから、流川は恐ろしくじゃんけんが強いことを思い出した。 「…何味がいいんだよ」 「ストロベリー」 「おま、それハーゲンダッツだろ!奢りだからって調子乗んじゃねえ」 「んじゃソーダ」 「じゃ俺コーラ」 「先輩も食うの?」 「俺には食うなってか?」 「だってあんま乗り気じゃなかったから」 そう言った顔が、なんとなく気に入ったから、 はやく家に帰ってごろごろしたかったんだよ、と叫ぼうとしてやめた。 「なんか自分だけ食ってちゃ嫌だろ、こういうのって」 「全然」 「あーそうですか」 「せっかく間接チュウするチャンスだったのに」 「変態かお前は…つか店ん中で妙なこと言うなっつの!」 「先輩と間接チュウ」 「おごんねーぞ」 冷ややかな視線とともに黙れと吐き捨てれば、ひどくうれしそうに軽く笑った顔。 ガサガサ袋を開けながら、なんだかんだでもう末期だと思った。 こいつはいつも恐ろしい程の仏頂面できもいくらい無愛想だけど、その表情が 崩れればびっくりするくらいガキくせー顔になるのを、 俺の他にあと何人知っているだろう。笑ったり怒ったり驚いたり、 こいつはバスケの技術と体格以外、全部中学生で止まってんじゃねーのかと思うほどに、 それは無防備で幼い。 「…もっとうまそうに食えよ」 ガレージの石に座ってひたすら無表情にでかい氷のかけらをかじっている流川は、 殴りたくなるような憎たらしさで。 「値段相応の味っすよ」 「どっかの坊ちゃんの真似かコラ。100円以上のアイスは三井サンに買ってもらえ」 「おいしいっつか、すきです、これも」 (ああ暑い暑い暑い、) ぼんやりと目の前の道路を流れていく車をながめるきれいな目、その先の長い睫毛、 アイスのせいで赤く濡れた唇は薄くてきれいな形。 黙っていれば、計算されたみたいに整ったその姿。 「なに見てんすか?」 にやっと薄く笑って見下ろす表情は、生意気過ぎるけど、 「お前こそ」 「先輩がガンガン視線送ってくるから」 (ああまさか、) 「ぶっさいくだな、って思ってたんだよ」 「その逆でしょ?」 「うるせえ」 ああまさか、その生意気がたまらなく愛しいだなんて、死んでも言えない。 誤魔化すように押し付けた唇を離せば「店の前で妙なことしないでください」とまたあの笑顔で。 (青い空の下の、君の笑顔) - 一足お先に夏真っ盛りでした〜^^ (07.6.16) ← |