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繋ぎなおすには理由がない。 好きなグラビアで意気投合し盛り上がった末の俺と花道の抱擁がお気きに召さなかったようで、 拳は赤坊主に、少し汗ばんだ掌は俺の掌をしっかりと掴み、そのまま部室を出た。 引きずられるようにして少し前に落ちてしまった夕日の名残りを背にしばらく歩いて、 「そんな怒ることじゃねーだろ」と叫ぶと俺の大して高くない鼻がでかい背中にぶつかった。 「首に手まわしといて」 「流れだよ流れ!それくらいよくあんだろ!」 「…よくあるんすか」 「ね、っな、揚げ足とんな!そういう意味じゃねえよ、いちいち気にすることじゃ ねーだろっつってんの」 いい加減離せよと威勢良く振りほどいた腕は思ったよりあっさりと外れてしまう。俺は背中を 睨みながらひゅうと風が鳴るのを聞いた。もう秋だ。 のそりと一歩進む背中に何か言ってやろうと眉間の皺をさらに深くしているとその足は 急にずんずん進み、慌てて追いかけた。 「ちょ、流川!」 「…」 「なんか言えよコラ!」 「うるせー」 「っこんの」 「どあほうには抱きついといて、俺の手は振り払うんすか」 流川の足は止まらない。俺はもはや小走り状態。身長差を恨みながら肩からかけた スポーツバックをがさがさ揺らした。 無愛想にジャージのポケットにつっこまれた流川の手を見る。もう秋だ。 ぴゅうと髪を揺らした風は冷たい。 「俺あんなことしてもらったことない」 「それはっ、タイミングとか、あんだろっ」 「試合中も、二人でいる時も」 「だからあ!それは」 「手繋いで帰んのも、 だめなんすか」 違う違う違う。ああもうめんどくせえ。日ごろの自分のシャイでかわいらしい部分と、 軽々しい行動を呪った。 ひっつかねえんじゃなくてひっつけねえんだよ。だめなんじゃねえよ引きづられてると思って 腹立ったんだよ。 ていうかお前も悪くねえ!?乱暴すぎじゃね!? あれ誰が見ても手繋いで帰ってるように見えねえよ誘拐未遂だよ明らかに力押しじゃねえか。 生憎繋いで帰りたいと思ったことなんてないその手をもう一度見る。 しっかりとポケットにつっこまれたままでどうしようもない。 繋いで帰りたいなら繋いでもいい。けど自分から解いてしまったその手を、繋ぎなおすには理由がない。 方法も無い。拗ねた流川はよく喋る。これでもかといくらいふってくる些細な不満を聞き流しながら 後ろをついていく。大人な俺は謝罪の言葉を探した。見つからない。この頑固者を納得させるような 言葉、あるならとっくにこいつくらい扱えきれてるはずなんだ。 地道に謝ろう。まず何から謝ればいい?今回は俺が折れるから穏便にやろうや。 言わないけど、この止まらない嫌味さえ聞けないようになるのは嫌なんだ。 抱きついたことから謝ればいい?普段の冷たい態度を謝ればいい?けど謝って意味はあるのか? 「わかってくれればいいんす」なんて微笑んでくれるとは到底思えない。 あいつが望んでるのはそんなものじゃない。 思って、念じてるだけじゃ意味がない。好きなんて。 「…んじゃ、家着いたんで。お疲れ様す」 抱きつきたくないわけじゃない、手を繋ぎたくないわけじゃない。 ただそんなこと、思いつきもしなかった。二人でいると、 それだけで結構いっぱいいっぱいだったから。 言えば、やってやらねえこともねえんだよ。そう思われてることは、満更でもねえんだから。 玄関のドアにかけるポケットから出した手をとりあえず掴んで、今度は俺が引っ張った。 「ちょ!なんなんすか」 「帰るんだよ!」 「俺ん家ここなんすけど」 「俺の部屋に!帰んの!」 冷たい秋の風を切りながら引っ張った手は一度離され、繋ぎなおされ、流川が隣に並ぶ。 「先輩の?家まで?」 「…〜っ、部屋まで!」 「…蒼井優よりすっごいの期待していいっすか」 「聞いてたのかよ!」 また花道との話を掘り返されるのかと思ったら、 「俺は先輩のがいいって思いながら、聞いてました」 もっとやっかいな言葉が降ってきた。 (手を繋いで何処までも) - ちゃり通一切スルーしてしまって申し訳ないです… (08.11.04) ← |