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たまに、明らかに物理的に無理だろう(物理なんか全然できねえけど、まあ現実に
起こりうる範囲を軽く超えてるということで)ということが、平気で目の前で起きたりする。 たとえば、後片付けは俺らがやっとくよ、お前は家で散々祝ってもらえやと言った チームメイトが、今俺より先に俺ん家で俺の部屋の扇風機を奪い合っていたりなんて、 普通に考えればいろんな角度からありえないことだけど、実際に 今目の前で三井サンが花道に思いっきり殴られている横で流川が 扇風機の前を陣取ることに成功した、という見苦しい惨劇が繰り広げられている。 「ってああ!?流川てめえなに扇風機の首止めてんだよ!あたらねーだろ!」 「文句は俺から離れてからにしろこの赤猿!」 「暑いから無理」 「てんめー!」 楽しそうで何より。 ていうか扇風機争奪戦に必死すぎて俺の存在に気づかないってどうなんだ。 あほらしすぎてとりあえず台所に行って冷たい麦茶を飲んだ。せっかく俺の 誕生日だってのに朝は部活、親は旅行(ありえなくないか、ありえなくないか、 俺を連れて行けよ、おかしいだろ)、部屋には不法侵入者。 やってられないとリビングのクーラーのリモコンを押した。 ほっといたら来るかな。っていうか何しに来たんだあいつら。 涼みたいならもっと他のとこに行けばいいのに。 嘘、何しに来たかなんて、わかってる。 たぶん絶対、俺のお祝いに来てくれたんだ。 今日俺は祝ってもらう気満々で部活に足を運んだ。体育館に入った瞬間 「リョータおめでとー!」なんてクラッカーの鳴る音を期待したりして。 とりあえず俺のひとつめの期待は簡単に消えた。 熱気が篭った体育館には俺が一番乗りしてしまった。妙に悲しくなった。 それから何回かあった休憩にも少しどきどきしてみた。 百歩譲ってあやちゃんのハグだけでもいいとだんだんハードルを下げながら 休憩中にも関わらず神経をすり減らしながらすごした。 じゃあ今日はここまで、と寂しく声をかけた後、そうだこの後盛大に(つっても マックとかで)みんなで祝ってくれるのかと思っていたら、俺らがやっとくよ、 祝ってもらえ。 「家誰もいねーし。 つーかお前らに祝ってほしいに決まってんだろ」 クーラーのうなるような音に紛れて吐き出した本音はより一層俺をみじめにした。 思わずじんわり喉が熱くなって、誤魔化すようにテレビをつけた。 奥の方で三井サンと花道の声が聞こえる。ぎゃーぎゃー騒いでいる。そんなひまがあったら 祝えよ! なにしてんだ俺は。もうわからない。 祝ってほしいのなら、あの輪に入ればいいだけなのに。 けど裏切られた数々の期待を思い出すと、素直に何してんだよと入っていけない。 クラッカーとケーキがないと入りたくない。せめておめでとうの声がないと 俺は動けない。 「…っ小せえ」 「いまさらっすね」 独り言に返事が返ってきた。視界が一回歪んで慌てて叫んだ。 「背じゃねえよ!」 「ふーん」 流川がどすんと隣に腰掛けたせいでソファがぐっと沈んだ。なにやってんだ。 「よう、もう扇風機はいいのかよ?」 「こっちの方が断然涼しい」 「あっそ」 他になんかねーのかよ。 誰も見てないテレビと相変わらず気だるい音と冷機を吐き出すクーラーの音だけが 大して広くもない部屋に響いた。 なんかゆうことあんだろ、いろいろ俺に、ゆうことあんじゃねえのかよ? 「ちっ、おせー」 苛ついた流川の声に切れた。 「んだよ人ん家勝手にあがりこんでどういうつもりだよ! 黙って見てりゃ図々しく涼みやがって、人の気も知らないで」 言いそうになって慌てて口をつぐむ。 俺におめでとうも言わないで、だなんて。 「先輩、」 「出てけよ」 「先輩っ」 「出てけっつってんだろ!?」 「誕生日、おめでとうございます」 リョーちん帰ってきてたんか!?なんてまぬけな声でわめく花道と、お前何 勝手にひとりで言ってんだよと怒鳴る三井サンがバタンと大きな音をたてて入ってきた。 目の前には、流川の、まっすぐな目。 「あーもー台無し!お前のせいで全部台無しだ!」 「そーだぞばかギツネ!言うときは一緒に、抜け駆けはなしだって約束だったろーが!」 「俺はせーのの前に言ってやるつもりだったけど、ぎりぎりまで我慢してたんだぞ!」 「なっ、みっちー信じらんねー!」 「だって先輩泣きそうだったから」 何か言おうとしたらピンポンが鳴った。 やっと来たとまた流川がひとつ舌打ちし、勝手にドアを開けに行く。 あーあ、結局なんもできてねえしと三井サンが髪をがしがしかいた。 みっちーが大人げなく扇風機独り占めしようとするからだろと花道。 玄関の方から、他の奴らとだいすきなあやちゃんの声。 「なーにしけた面してんのよ!」 どうやらこの馬鹿どもは俺の部屋をパーティー会場にするという名目で侵入してきた らしかった。本来ならもっと適した人間がいるはずなのに、 「宮城ん家に忍び込めるのは俺しかいねえ!」とばかな某先輩が豪語、 それについてきたあほが2人、そんな恐ろしいメンツにじゃあ俺もと 参加できるやつはもちろんいなくて、大量の折り紙だの折り紙だの折り紙 (っていうか折り紙ばっかだった。わっかと花吹雪を作る意外思いつかなかったらしい) を持ち込んで無事侵入したはいいものの、熱すぎる気温のせいで あの下らない争いが勃発、元からきれいに進むとは到底思えなかったパーティー会場 作りは見事に俺の帰宅と共に失敗に終わり、サプライズだぜ!宮城びっくりしろよこのやろーな 意気込みだけが虚しく伝わってきたという残念な結果で会場は夢へと消えた。 あやちゃん曰く、「正直あたしと晴子ちゃん意外全員戦力外通告物でしょ? だからもうこの際誰だっていいかなって。あたしはせめてケーキを用意したかったから、 ちゃんと昨日のうちから晴子ちゃんと作ってたのよ。取りに帰って期待せずに 来てみたら、予想以上の裏切られっぷり」 「ごめんなリョータ。ぐだぐだになっちゃって」 「…ん、ああ、いいよべつに」 でもお前なら俺の家に 入れたんじゃないかと少しだけ思った。ヤスがいてくれたらもう少し 色々まともな方向に事は運んだかも知れないのに。まあ他がこの3人だから無理か。 「あーあ、どっかのばかが先に言っちまったせいで感動が薄れちまったなあー!」 「うるさいどあほう」 「なにをー!」 「お前らうるせえ!」 「うるさいのはこいつだけだ」 「きー!ばかわめ!お前にリョーちんを 祝う資格なんかねえ!帰れ!」 「嫌だ」 「お前らが帰れ!」 「んだと差し歯あ!」 「ああ!?誰が差し歯だ!」 「元ロンゲ」 ああもう。 「あんだとやんのか流川、ああ?」 「下らんことはやんねー」 「お、逃げんのか負けギツネ」 「ばかもたいがいにしろどあほう」 「お前らうるせえ!」 「いーからさっさとおめでとうを言いやがれ!」 叫ぶとみんな一瞬ばかみたいにまぬけな顔をしてから、とびっきりの笑顔で、 (あの流川さえも、ちょっと笑って) 「誕生日おめでとう!」 つけっぱなしのテレビでは盛大な拍手が響いていた。 (ある7月31日) - もっと流リョ! (07.08.14) ← |